人とくるまのテクノロジー展で、強く印象に残った展示があった。
株式会社コイワイのブースで見た、3Dプリント砂型を用いたアルミ鋳造のロードバイクフレームである。

最初に見たときの感想は、正直に言えば「鋳物でロードバイク?」だった。
ロードバイクといえば、カーボンフレーム、アルミパイプ、クロモリ、チタン、最近では金属3Dプリンタ製のラグなどが思い浮かぶ。そこに「アルミ鋳造フレーム」と言われると、まず重量が気になる。ロードバイクとして成立するのか、という疑問も出てくる。
ロードバイクは、形だけで評価できるものではない。重量、剛性、空力、疲労耐久性、整備性、乗り味。どれか一つだけを取り出して語るのが難しい乗り物である。
だから、アルミ鋳造という言葉とロードバイクが並んだ瞬間に、少し身構えた。
ただ、展示を見ていくと、少し見方が変わってきた。
このフレームの主題は、「ロードバイクとして速いのか」という一点ではないのではないか。
むしろ見るべきなのは、その製造プロセスだった。
人の動きから、フレーム形状を導く
公開されている資料では、この取り組みは「身体適合型自転車フレーム」として紹介されている。

兵庫県立工業技術センターの研究報告書を読むと、まず乗車姿勢と自転車への荷重を計測し、そのデータをもとに筋骨格シミュレーションと走行時の荷重解析を行っている。そこからトポロジー最適化によってフレーム形状を設計し、砂型3Dプリンタで型を作り、アルミを鋳込んでプロトタイプを試作する。
単に、変わった形のフレームを作ったという話ではない。
人が自転車に乗ったとき、ハンドル、サドル、ペダルにどのような力がかかるのか。身体はどう動くのか。後輪出力はどうなるのか。
そうしたデータを計測し、筋骨格シミュレーションやCAEの条件に反映し、そこからフレーム形状へつなげている。
ここが重要だと思う。
ロードバイクフレームの設計は、一般的には既存のフレーム形状、規格、素材、製造方法を前提に考える。もちろん現在の量産フレームも、解析や実験を重ねて作られている。
ただ、この展示では、人の動きや荷重特性を起点にして、構造を最適化し、その結果として出てきた形状を鋳造で現物化している。
人の動きから構造を考え、構造から形状を導き、その形状を砂型3Dプリンタと鋳造で実物にする。
会場に置かれていたフレームの背景には、その流れがあった。
金属3Dプリンタで作ったフレームではない
ここで誤解しやすい点がある。
このフレームは、金属3Dプリンタで直接造形されたものではない。
3Dプリンタで作っているのは、砂型である。
その砂型にアルミを流し込み、鋳造によってフレームを作っている。
この違いは大きい。
金属3Dプリンタは、複雑な形状を直接作れる技術である。一方で、造形サイズ、コスト、材料、後処理、生産性には制約がある。特に自転車フレームのような大きな構造物を、そのまま金属3Dプリンタで作るのは簡単ではない。
兵庫県立工業技術センターのnote記事でも、自転車フレームのサイズを造形できる金属3Dプリンタがないため、今回は砂型3Dプリンタで砂型を作り、アルミを鋳込んで試作したと説明されている。
つまり、ここでの3Dプリンタの役割は、最終製品を直接作ることではない。複雑な鋳型を作ることにある。
通常の金型やパイプ溶接では作りにくい自由曲面や左右非対称の形状を、砂型3Dプリンタで鋳型として作る。その後は、鋳造という既存の金属加工プロセスにつなげる。
この組み合わせに、今回の展示の意味がある。
CAEやトポロジー最適化で出てくる形状は、画面上では合理的でも、実際に製造する段階で制約を受ける。曲面、肉厚、抜き勾配、加工できない奥まった部分。最適化形状をそのまま現物にするには、製造方法側の工夫が必要になる。
その間をつなぐ手段として、3Dプリント砂型と鋳造が使われている。
今回のロードバイクフレームは、その実証として見ると分かりやすい。
ロードバイクとして見れば、未確認点は多い
一方で、ロードバイクとして評価するには、まだ分からないことが多い。
重量はどれくらいなのか。空力性能はどうなのか。疲労耐久性は十分なのか。鋳巣の管理はどうしているのか。BBまわりやヘッドまわりの剛性はどうなのか。整備性や量産性はどうなのか。
ロードバイクは、見た目のインパクトだけでは成立しない。実際に走って速いのか。長く使えるのか。軽いのか。壊れにくいのか。整備できるのか。そこまで含めて評価される。
また、公開資料では中実アルミのフレームであることにも触れられている。ロードバイクのフレームとして考えると、この点だけでも、一般的な軽量フレームとはかなり異なる位置づけだと分かる。
したがって、この展示を見て「将来のロードバイクはすべてこうなる」と受け取るのは早い。
少なくとも現時点では、レース用ロードバイクの本命技術として見るより、製造技術、試作技術、個別最適化設計の実証として見るほうが自然だと思う。

ロードバイクを題材にした製造技術の実証
そう考えると、この展示の見え方は変わる。
これは「ロードバイクとしての性能を主張する展示」というより、「ロードバイクを題材にして、CAE形状を現物化するプロセスを示している」展示だったのだと思う。
人の動きを測り、荷重条件を作り、筋骨格シミュレーションを行う。そこからトポロジー最適化で形状を出し、砂型3Dプリンタで鋳型を作り、アルミを鋳込み、必要な部分を機械加工する。
この流れが一つにつながっている点に、この展示の価値がある。
日本鋳造工学会の「2025年度 Castings of the Year」受賞ページでも、この作品は「身体適合型自転車フレーム」として紹介されている。受賞ポイントとして、個人の身体動作特性に基づくトポロジー最適化設計、砂型3Dプリンタを活用した鋳造、自由曲面・左右非対称形状でも嵌合部の精度を確保したことが挙げられている。
鋳造技術の展示として見れば、ロードバイクという題材は分かりやすい。
人が乗るものなので、身体との関係が見えやすい。構造物としても、軽量性や剛性が問われる。さらに、ロードバイクを知っている人ほど、疑問も含めて考える余地がある。
だからこそ、会場で足を止めたのだと思う。
自動車部品や補修部品への展開
この技術の応用先は、ロードバイクに限らない。
むしろ、人とくるまのテクノロジー展で見たからこそ、自動車部品や産業部品への展開を考えたくなる。
たとえば、自動車部品の試作や、大型鋳造部品の形状検討。あるいは、廃番部品の再製作、少量の補修部品、個別最適化された治具や構造部品。
CAEやトポロジー最適化で生まれた形状を、すぐに量産金型へ持ち込むのは難しい。けれど、砂型3Dプリンタで鋳型を作り、鋳造で試作できるなら、検討の進め方は変わる。
特に、少量生産や補修部品では、金型を起こすほどではないが、金属部品として実物が必要になる場面がある。そこで、データから鋳型を作り、鋳造で現物化できる選択肢があることは大きい。
もちろん、何でも作れる技術ではない。材料、強度、精度、後加工、検査、コストなど、実用化を考えれば詰めるべき点はいくつも残る。
それでも、画面の中の最適化形状を、現実の金属部品として取り出す手段として、3Dプリント砂型と鋳造の組み合わせは興味深い。

違和感から始まったが、見るべき点は別にあった
最初は「鋳物でロードバイク?」という違和感から入った。
ロードバイクとして見れば、今でも疑問はある。軽いのか。速いのか。長く使えるのか。そこは、公開資料だけでは判断できない。
ただ、製造プロセスとして見ると、示唆の多い展示だった。
人の動きを測り、構造を最適化し、複雑な形を砂型3Dプリンタと鋳造で現物化する。
ロードバイクは、そのプロセスを見せるための題材だったのかもしれない。
人とくるまのテクノロジー展で見たこのフレームは、単なる変わり種の展示ではなかった。
CAEの中で生まれた形を、どうやって現実世界に引き出すのか。
その、ものづくりの本質的な課題を見せてくれる展示だった。