はじめに──「JMS翌年のTASが濃い」と感じる理由
私見だが、ジャパンモビリティショー(JMS)の翌年に開催される東京オートサロン(TAS)は、例年いっそう内容が濃くなる。JMSがメーカー主導で“未来”のモビリティ像や技術ビジョンを提示する場だとすれば、TASは“いま”の自動車文化と市場へ向けて、クルマの楽しさを真正面から届ける場だ。
「新型車のチューニングモデルが並ぶ」だけではない。JMSで公開した車両の追加情報が出てきたり、逆にJMSでは語られなかった“実車・実装寄り”のネタがTASで初披露されたりする。さらに重要なのは、ショップやメーカーの開発者と直接会話できる距離感だ。現物を目の前に、手触りを確かめながら話を聞ける。結果として、年始の緩んだ頭に、強制的にスイッチが入る。

というわけで、今年もTAS2026の1日目(金曜日)に足を運んだ。
TAS2026は1月9日(金)〜11日(日)、幕張メッセで開催される。金曜はビジネスデイ扱いで、時間帯により「サイレントタイム」等の運用もある。
平日ゆえ、首都高の渋滞を避ける前提で、幕張メッセには朝7時に到着。開場までの待ち時間は、車内で動画(最近ハマっているNetflixの”ラブ上等”)を流しつつ、地図に落としていた今日の回り方を再確認する時間にした。
そして開場。入場後、迷わず向かったのは北ホールのトヨタ(GAZOO Racing)ブースだ。

トヨタ(GAZOO Racing)が“主役の空気”を作っていた
ここ数年、トヨタのTASでの存在感は増す一方だが、今年はついに北ホールへ移動した。GAZOO Racingとしての構成はTOYOTA単独に留まらず、(少なくとも現地の印象としては)関連ブランドまで含めた“面”での展開で、北ホールの相当部分を押さえていた。
開場直後から混雑していた最大要因は、目玉の初披露とトークイベントだろう。トヨタはTAS2026でプレスカンファレンス/スペシャルトークショーを実施し、モリゾウ(豊田章男氏)と中嶋副社長らが登壇している。
現場は「展示を見る」だけでなく、「動きのあるコンテンツを見に行く」人波が重なり、最初から“満員スタート”だった。

GR-GT:外観より先に「骨格(フレーム)」で刺してくる展示
特に印象に残ったのが、GR-GTをめぐる見せ方だ。派手な照明や演出はもちろん、車両そのものの“芯”にあたる構造が見える展示が用意されていた(少なくとも私は、そこで足が止まった)。「クルマの面白さ」を語るとき、外観やスペックだけでなく、剛性・パッケージング・作りの思想が立ち上がってくる瞬間がある。今回の展示は、まさにそこを狙っていたように感じる。



※トヨタがTAS2026で語った開発姿勢や「切磋琢磨」的なニュアンスは、メディアレポートでも触れられている。
“異物感”が強かった2台──NSXとAMG ONE
「このイベントで一番すごいのは何か」を決めるのは難しいが、“価格”という分かりやすい軸で見れば、現地の空気を変える車両がいくつかあった。
Italdesignの「NSX Tribute」
北ホールには、Italdesignが手掛ける「NSX Tribute」が展示されていた。報道によれば、これは初代NSXへのオマージュを掲げた特別モデルで、価格は約1億8000万円規模とされる。


“約2億円弱”という金額のインパクトは言うまでもないが、私が引っかかったのは別の点だ。TASという「いまの市場」へ向けた場で、デザインハウスがここまで強いメッセージを持つNSX企画を提示してきたこと。JMSとは違うベクトルで、クルマの文脈(文化・思想)を押し出してくる。TASらしい一撃だった。
PETRONASブースの「Mercedes-AMG ONE」
そして、PETRONASブースに展示されていたMercedes-AMG ONE。東京オートサロン公式の展示車両一覧でも、PETRONAS出展車として「Mercedes-AMG ONE」が掲載されている。


世界限定275台という希少性は広く知られており、価格は報道ベースで約275万ユーロ(あるいは約300万ユーロ級)とされる。
現地で“最も高額な車両の一つ”と感じたのは、数字の話だけではない。AMG ONEは存在自体が「技術の塊」なので、車両の周囲にできる人だかりの質が違う。写真を撮る人の角度も、立ち止まる時間も長い。TASという場に、F1直系のハイパーカーが「油田のように」視線を吸い寄せていた。
“チョロQ感”が刺さった
スーパーカーの話をした直後に真逆を言うが、今年のTASで面白かったのは、むしろ「小ささ」や「デフォルメ」が生む魅力でもある。
スズキTwinベースのR32風:可愛いのに、ちゃんと分かる
スズキTwinをベースにR32風へ仕立てたカスタムカーがあった。造形の方向性としてはチョロQ的で、とにかく可愛い。しかし、単なるネタに見えないのは「R32に見える記号」が要所で成立しているからだ。こういう車両は、写真で見るより現物で見た方が“狙い”が理解できる。


日本自動車大学校:コペン→A90スープラの“学び方”が見える
もう1台、チョロQ感で刺さったのが、日本自動車大学校の学生がコペンをベースにA90スープラ風へ仕立てた車両。

こうした学生制作車は「完成度」だけで評価すると見誤る。個人的には、どこに工数をかけ、どこを割り切ったか(=設計判断)が見えるのが面白い。TASは、そういう“学びの痕跡”を読み取れる場でもある。
クルマ以外の“発想の展示”
車両展示以外で気になったのが、モナルテのフローティングフロア。洪水・浸水時に車両下の床を浮上させるというアイデアで、説明パネル上は「車両1台分」「約3トン級まで対応」といった趣旨だった(※現地説明に基づく)。

ここで湧くのは「果たして需要はどれほどか」という疑問だ。だが、需要の大小だけで切り捨てるのは早いとも思う。災害対策は、普段は“不要”に見えるが、発生した瞬間に価値が跳ね上がる領域だからだ。とはいえ、設置コスト・メンテ・保険・自治体連携など、プロダクトとして成立させるには越えるべき壁が多い。TASは、こうした“プロダクトの芽”が市場性と向き合う場でもあるのだと感じた。
旧車文化の“裏側”に踏み込む:レストアパーツの本気
需要の話でいえば、レストアパーツ.comの展示は別の意味で衝撃だった。旧車のレストア用に、リバースエンジニアリングで“純正級のボディパネル”を起こしていく。AE86では、プレス金型を新規に起こし、3000トンプレスを用いるなど、プレスラインの再現性にも踏み込んでいると紹介されている。


単に「部品を作る」ではない。文化(AE86)を未来へ繋ぐために、“金型”という産業の重たい領域へ入っていく覚悟が見える。
一方で、ここでも私は「需要はどれほどか」と考えてしまう。金型は一品モノで終わらないとはいえ、償却の設計は簡単ではないはずだ。だからこそ、TASのように実ユーザーと最短距離で接触できる場所で、反応を集め、判断材料を増やしていくのだろう。TASの現場には、こうした“市場の手触り”がある。
まとめ──TASは「今の熱量」を測る場所
東京オートサロンは、未来予告の祭典ではない。いま存在する熱量が、どこに集まり、何にお金と工数が投下され、誰がどんな言葉で語っているかを可視化する場所だ。
トヨタ(GAZOO Racing)が“場の空気”を作り、Italdesign NSX Tributeのような企画車が文脈を揺さぶり、AMG ONEが価格の天井を提示する。一方で、Twinや学生制作車のような“楽しいデフォルメ”が、クルマ文化の裾野を広げている。さらに、フローティングフロアやレストアパーツのように、クルマの周辺産業が「課題」と「覚悟」を携えて並ぶ。
正月ボケに活を入れるには、十分すぎる一日だった。